真核生物の細胞は、細胞内で機能する因子群を空間的に制御することによって多様な機能を獲得している。細胞質における因子の空間的制御には、mRNA局在とそれに共役した翻訳制御が重要である。これまでに、核と細胞質をシャトルするRNA結合蛋白質の1つであるHrp48が、ショウジョウバエ卵母細胞の前後軸決定因子oskarのmRNAとRNP複合体を形成し、その細胞内局在と翻訳制御の両方に必須であることを示してきた。本研究の目的は、核内におけるHrp48を含むRNP複合体の形成がどのような分子メカニズムで細胞質における、mRNA局在・翻訳制御に影響するのか、また、mRNA局在と翻訳制御の共役におけるRNP複合体の役割を明らかにすることである。 本年度は、ショウジョウバエ培養細胞であるS2細胞において、様々な欠損、あるいは変異を有するHrp48蛋白質を発現できる細胞株を樹立し、S2細胞抽出液においてHrp48と相互作用する因子の探索を行った(第7回日本RNA学会大会にて報告)。さらに、in vivoで卵母細胞においてHrp48の部分ペプチドを強制発現することによりそれらをdominant negativeとして働かせ、Hrp48の2つの機能であるoskar mRNA局在と翻訳制御における影響を検討した。その結果、Hrp48のRNA結合ドメインを除いた部分ペプチドがoskar mRNA局在にほとんど影響しないのに対して、oskar mRNA翻訳抑制を阻害したことにより、Hrp48のRNA結合ドメイン以外がoskar mRNA翻訳抑制に関与するRNP複合体形成に重要であることを示した。また、Hrp48のRNA結合ドメインを除いた部分ペプチドの強制発現は、背腹軸決定因子であるgurken mRNAの局在に影響を与えることから、gruken mRNA局在に必須の因子がHrp48のRNA結合ドメイン以外の部分に相互作用する可能性を示した。
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