研究課題
基盤研究(C)
本研究では、未分化と分化という2つの状態をとりうるES細胞において、LIFによる未分化/分化の切り替えがいかにして行われているのか、その「スイッチ機構」を分子レベルで明らかにすることを目的として実験を進めた。まず、DNA microarray法およびRT-PCR法を用いて初期分化に発現してくる分子および未分化状態特異的に発現している分子の探索を行ない、いくつかの分子を見い出した。次にこれらの分子のES細胞における役割を解析した。Zfp57は遺伝子欠損ES細胞を樹立することが可能であったことから、未分化性の維持には必須ではないと思われた。一方でEedが「完全な」未分化状態の維持に必要であることを明らかにした。Gliの発現や機能・を抑制すると、未分化維持に必須な転写因子であるOct-3/4やNanogの発現が低下したことからGliが未分化性維持に関与している可能性が示唆された。Zfp57と同様に、STAT3-activated gene 3(S3A3)も未分化性の維持には必須ではないことが明らかになったが、S3A3を欠損したES細胞においては分化時における内胚葉分化のマーカー遺伝子群の発現誘導が明らかに促進されていた。このことからES細胞が未分化な状態から分化状態に移行する際に、S3A3の発現量によってその細胞の内胚葉系細胞への分化が調節されると考えられた(このような性質から、申請者らはS3A3をSTAT3 downstream gene and differentiation regulator(Sddr)と名付けた)。GABPαを過剰発現したES細胞をLIF非存在下において分化させてもOct-3/4の発現量が低下しないことや、ノックダウンを行うとOct-3/4リプレッサーの発現が上昇することから、GABPαがOct-3/4リプレッサーの発現抑制を介してOct-3/4の発現を調節していることを明らかにした。またLIF刺激によって安定化されて核内に蓄積されたβ-cateninがOct-3/4と結合してNanogの発現を誘導することも見い出した。以上の結果からLIFが、Sddr,Eed,Gli1,GABPαといった様々な遺伝子の発現を促進したり、β-cateninのようなタンパク質の安定化を行うことによって、ES細胞における未分化/分化のスイッチングを行っていることが明らかとなった。
すべて 2007 2005
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