研究概要 |
ほ乳類の精子形成幹細胞システムは、未分化型精原細胞と呼ばれる一群の細胞によって担われている。研究代表者は、ここに特異的に発現するbHLH型転写因子ngn3を同定した(Yoshida et al., Dev.Biol.2004)。ngn3が欠損すると、インシュリン産生細胞が形成されず、精子形成以前に個体が死亡する。本研究の目的は、生殖細胞特異的ngn3欠損動物の作成と解析を中心に、精子形成におけるngn3の機能を解明することである。しかし本年度、当初計画していたマウスの作成に至らなかった。変異遺伝子座に予想外の余分な変異が見つかり、Creによる組替えが期待通りに起こらなかったためであった。しかし、すでに期待通りのマウスを得ており、18年度にはその解析を行う。 17年度には、ngn3発現細胞の細胞としての機能を解析した。まず、生殖細胞においてngn3遺伝子は、出生時のゴノサイトまでは検出されないが、生後3-5日に少数の精原細胞で発現を開始することが分かった。ngn3発現細胞にCreリコンビナーゼを発現するマウスを用いて、ngn3を発現する細胞と、発現しない細胞を別の遺伝子で標識する系を樹立し、それぞれの運命を追跡した。その結果、生後約40日に初めて放出される精子は、ngn3を発現することなく分化過程に入る細胞により作られること、その後一生の間作られ続ける精子は、全て、幹細胞として機能するngn3陽性細胞の段階を経て作られることを明らかにした(Yoshida et al., Development, 2006)。遺伝子が欠損した影響を正しく評価するためには、その発現細胞の出現の時期及び場所、その性質と運命を詳細に記載しておくことが非常に重要になる。よって本年度は、来年度にngn3の機能解析を正確かつ精確に行う上で不可欠な重要な知見を得た。
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