次世代への遺伝情報の伝達を担うマウス精子形成幹細胞の成立機構と、成体精巣内での挙動、更にそこで働く分子機構を明らかにすることを目的として研究を行った。そのために、幹細胞を含む少数の未分化型精原細胞に特異的な遺伝子として我々が同定したNgn3に注目し、以下の研究成果を得た。 まず、生後一ヶ月以内の前思春期および思春期において、精子形成幹細胞(未分化型精原細胞)が成立する過程を検討した。Ngn3発現細胞に恒常的に活性を持つcreリコンビナーゼを発現するトランスジェニックマウスを用いて生後精子形成の初期過程を解析したところ、Ngn3を発現する(未分化型精原細胞の段階を通る)細胞と発現しない(未分化型精原細胞の過程を経ない)細胞が存在することが明らかになった。興味深い事に、後者は生後35日ころに初めて起こる精子形成の第1サイクルにのみ観察された。このことは、最初に分化する細胞が未分化型精原細胞の段階を経ずに、前駆細胞であるgonocytesから直接分化過程に入る事を意味する。一方で、この後に続く恒常的な精子形成は、すべてNgn3陽性未分化型精原細胞に由来していた。 更に、Ngn3遺伝子の生体内での機能を明らかにするために、生殖細胞特異的にNgn3を欠損するマウスを作成し、その表現系の解析を行った。(体中でNgn3を欠損するマウスは膵島を完全に欠損し重度の糖尿病となり、生後3日以内に死亡する。)現在までに、生殖細胞特異的にCreを発現するマウスと、Ngn3遺伝子をloxP配列で挟んだマウス、Ngn3遺伝子を欠損したマウスの掛け合わせにより、生殖細胞特異的Ngn3欠損マウスを得ており、解析を行っている。
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