本研究では、初期発生の特異的遺伝子発現を担う遺伝子ネットワークを解明する目的で、ウニ胚小割球由来細胞に特異的に発現し原腸陥入や骨片形成に関わるT-brain(HpTb)遺伝子に焦点を当て、その転写調節領域の解析を行った。3年間の実験から得られた結果は以下の通りである。 1.7kbのHpTb遺伝子をクローニングし、この領域をレポーター遺伝子と連結させた構築の発現が内在性のHpTb遺伝子の時間的および空間的発現と一致したことから、7kb中に特異的遺伝子発現を担う十分なシス調節領域が含まれることが明らかになった。 2.7kb中の転写調節領域を効率良く解析するため、別種2種のウニとのゲノム比較を行い、エキソン以外の保存性の高い4つの領域(C1-C4)の存在を明らかにした。C1およびC2領域には、HairyファミリーおよびSnailファミリー結合因子の結合コンセンサス配列が3種において保存されていることが明らかになった。 3.C1領域に保存されたHairyファミリー結合因子の結合サイトを変異した構築では、内胚葉および外胚葉での異所的なレポーター遺伝子の発現が増加し、C2領域に保存されたSnailファミリー結合因子の結合サイトを変異した構築においても同様の異所的な発現が観察された。これらの結果から、HairyおよびSnail転写因子がHpTb遺伝子の異所的な発現を内胚葉や外胚葉で抑制する可能性を示唆した。 4.C4領域には、発現を増幅するエンハンサーが存在し、この領域中の3つのEtsファミリー転写因子結合コンセンサス配列がHpTb遺伝子の活性化に必要であることが示唆された。 これらの結果から、HpTb遺伝子の時空間的な発現制御には複数のシス調節エレメントが関与することが明らかになった。
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