本研究では原腸胚期の胚葉形成におけるNotchシグナルの役割を明らかにするために、Notchシグナルの構成因子が及ぼす原腸胚形成への影響と、その過程で明らかになったNotchシグナルの新規標的遺伝子の機能を解析し、以下の研究成果を得ることができた。 1.原腸胚期におけるXSu(H)2の役割 Notchシグナルのもとで働く転写因子XSu(H)2の機能欠損実験から、XSu(H)2は既知標的遺伝子であるXESR-1とは異なる遺伝子を介して原腸形成に関わることがわかった。原腸胚期にザイゴティックに発現する遺伝子群の中でXSu(H)2に応答性を示す遺伝子を検索した結果、POUクラスV転写因子をコードするXoct25およびXoct91がXSu(H)2に対する応答性を示すことがわかった。Xoct25のプロモーター解析より、XSu(H)2はXoct25のプロモーター上にあるSPS配列に直接結合して転写制御していることが明らかになった。 2.原腸胚期におけるXMam1の役割 Mastermindは転写因子Su(H)と共に働いてNotchシグナルの標的遺伝子を活性化する転写補助因子とされている。ツメガエルのMastermindホモログであるXMam1の初期発生における機能解析を行った結果、XMam1は神経胚期において一次神経形成を抑制する一方、神経誘導に必須の因子として働き、神経分化の初期マーカーであるSoxDやNRP1の転写を誘導することがわかった。神経誘導制御シグナルとの関係を検討した結果、BMPシグナルではなくFGFシグナルと密接に関わる可能性が示唆された。 3.Notchシグナル標的遺伝子の網羅的解析 Notchシグナルの標的遺伝子を明らかにするためにマイクロアレイによりXSu(H)2の標的遺伝子を網羅的に検索した。NotchシグナルとXnr2に応答性を示し、原腸胚期にザイゴティックに発現する新規遺伝子の全長を単離・同定し、XenopuslaevisATF1(XIATF1)と名付けた。機能阻害実験から、XIATF1は原腸胚期の中胚葉形成に必須の転写因子であることがわかった。 本研究によりNotchシグナルの構成因子であるXSu(H)2およびXMam1はNotchシグナル依存的経路と非依存的経路の分岐点において原腸胚期の細胞の発生運命を制御することを示すことができた。
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