真核生物の遺伝子は、大部分が核にコードされているが、一部、色素体、ミトコンドリアにもコードされている。通常の生物では、核には偽遺伝子が多く含まれるが、オルガネラゲノムには稀である。本研究では、最も原始的であると考えられる植物である、Cyanidioschyzon merolaeを材料として、核とオルガネラゲノムの両方にコードされている遺伝子の系統解析による進化と、遺伝子発現及び機能解析を行い、細胞内共生について考察することを目的として以下の研究を行った。本年度は、核及びオルガネラゲノムの類似性検索を行い、核と色素体ゲノムの両方にコードされている同じ遺伝子を見出した。植物葉緑体のチラコイド膜内へのタンパク質輸送に関与するsecA遺伝子、RuBisCOの発現に関与すると考えられる未知遺伝子cfxQの2種類である。2つのsecA遺伝子から推定されるアミノ酸配列を基にML法で系統樹を作成したところ、色素体ゲノムにコードされているsecA遺伝子は、同じく色素体ゲノム上のsecAと同じグループに属したが、核のsecAは、少数のバクテリアで知られているsecA2と同じグループに属した。この結果は、2種類のは、異なる起源を持つことを示唆している。また、これらの2つの遺伝子の発現時期の違いを知るために、C.merolaeの光周期による同調培養を行い、計時的にRNAを単離し、ノーザン解析を行ってこれらの遺伝子の転写産物の蓄積量の変動を調べた。その結果、核コードのものは転写産物の蓄積量がほぼ一定であるのに対し、色素体ゲノムコードのものは明期に蓄積量が多く、暗期には少ないという結果が得られた。cfxQ遺伝子の場合も、系統解析の結果、核と色素体ゲノムの遺伝子では異なるグループに属することがわかった。転写産物の蓄積量はどちらも明期に多く暗期に少なかったが、その蓄積パターンは異なることがわかった。
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