研究概要 |
本研究では生物進化における謎の1つである多細胞生物出現の過程で獲得したシグナルにっいて、最も原始的な多細胞生物である細胞性粘菌を用いて解明を試みている。細胞性粘菌は子実体を形成する過程で、柄細胞の転写因子STAT依存的なプログラム細胞死を起こす。 本年度の実施概要は以下のとおりである。 1.既に動いているSTAT関連遺伝子としてのSTATaサプレッサー遺伝子のスクリーニングの継続を行った。その結果、今年度新たに6個のサプレッサー遺伝子が単離された。 2.サプレッサーのうち、ncRNAとして機能しているdutA遺伝子ではSTATaのリン酸化が上昇し,チロシンキナーゼの活性化を通してSTATシグナルと関連していることが示唆された。この結果については論文としてまとめ投稿し、アクセプトされた。 3.既に同定されたDd-STATaサプレッサー遺伝子Dd-CH1(SunB)について、遺伝子破壊株の作製を試みたが,ゲノムデータベースと異なりゲノム中に2コピー遺伝子が存在することが判明した。現在1コピー目の遺伝子破壊に成功し,2コピー目の破壊を行なっているところである。 4.もう一つのDd-STATaサプレッサー遺伝子NK20についても機能解析を行なった。NK20遺伝子は100アミノ酸程の小さなタンパク質をコード出来,アミノ酸組成が極めてセリンとグリシンに富んでいるため翻訳されている不明であったが、GFPタグを付けて発現させてタンパク質に翻訳されていることを確認した。遺伝子破壊株を作製したが表現型はノーマルであった。細胞性粘菌ゲノムには100個程のファミリー遺伝子が存在することがわかったが,予定柄細胞でのみ発現する遺伝子しかDd-STATaのサプレッサーでないことが確認された。 5.昨年度単離されたDd-STATaによって発現が制御される5つのプログラム細胞死関連遺伝子について解析を行った。これらについては全て遺伝子破壊株の作製を試みており,2つについて最終確認の段階まで来ている。全ての遺伝子についてプロモーターを単離して、3つについては解析出来た。その結果ELMO/CED-12familyのホモログ遺伝子の1つは明確にDd-STATa遺伝子破壊株において発現が消失していることが確認された。また、全てについて過剰発現株の作製とGFP融合タンパク質の発現を試みており,4つについては過剰発現株が得られ、現在その詳細な解析を行なっている。
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