研究概要 |
ヒトの歯における胎児環境の影響を分析するため、異性二卵性双生児の調査を行った。対象は東京大学総合研究博物館および東北大学大学院歯学研究科口腔器官構造分野に保管されている日本人双生児の石膏模型である。これらの資料は故藤田恒太郎教授、故埴原和郎教授、故佐伯正友教授によって1951〜1970年に収集されたもので、対象は主に東京大学附属中等教育学校の学生とその志願者で、年齢は9歳〜15歳である。計測した資料は異性二卵性双生児58組、一卵性双生児326組、同性二卵性双生児94組である。卵性は血液型(ABO,MN,Rh,Q)、唾液分泌型、耳垢、PTC味盲、指紋等の遺伝子マーカーを用いて総合的に診断された。本研究では遺伝因子を分析しないので、一卵性双生児および同性二卵性双生児については各ペアの片方の個体の計測値のみを分析した。ノギスを用いて歯冠近遠心径、頬舌径および咬頭径(中心窩から各隅角までの距離)を計測した。性差は性差百分率(Garn et al., 1967)によって比較し、その差はt検定によって検出した。異性二卵性双生児では一卵性双生児、同性卵性双生児と比較して、女性の歯が大きく、男性の歯が小さかった。この結果はオーストラリア白人の双生児を分析したDempseyら(1999)の結果と一致していた。彼女らは胎生期の性ホルモンの影響が異性二卵性双生児では男女の胎児に同じように作用するため性差が小さくなったと考察している。咬頭径の計測値を比較すると発生の早い近心の咬頭では性差が小さく、発生の遅い遠心の咬頭では性差が大きい傾向があった。異性二卵性双生児では発生の早い咬頭では性差が著しく小さくなり、発生時期と性差の関係が他の双生児より強調されていた。以上から胎生期の性ホルモンの影響は発生のステージが進むほど男女間での違いが大きくなると考えられた。
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