研究概要 |
ヒト第一大臼歯のサイズへの環境の影響を分析するため,異性二卵性双生児と同性双生児の性差を比較した。材料は東京大学総合研究博物館および東北大学大学院歯学研究科で保管されている双生児石膏模型(同性双生児491組異性双生児68組)である。ノギスを用いて歯冠近遠心径・頬舌径のほか,上顎では咬頭径(中心窩から各隅角までの距離),下顎では歯冠ユニツトのサイズ(トリゴニットおよびタロニッドの近遠心径,頬舌径)を計測した。遺伝要因は分析しないため同性双生児は各ペアの一方の計測値をデータとした。上顎歯においては,異性双生児は同性双生児より女性で平均値が大きく,男性で小さい傾向があったが,両双生児間の差は有意ではなかった。近心の咬頭では両双生児間の差が大きく,異性双生児では性差がとくに小さかった。下顎歯においては男女ともに同性双生児の平均値が大きかったが,両双生児間に性差パターンの違いは認められなかった。Dempsey et al(1999)は異性双生児では性ホルモンの影響が男女の胎児に同じように現れるため,歯冠サイズの性差が小さかったと述べている。上顎歯の結果は彼女らの仮説を支持していたが,下顎歯では性ホルモンの影響が男女に同等であったにもかかわらず歯のサイズにおける性差は同性双生児と変らなかった。すなわち,下顎歯には上顎歯よりも強く遺伝的な要因が働いたものと考えられる。異性・同性双生児ともに発生の早い近心部で性差が小さかった。この結果は発生初期には性ホルモンの影響が弱かったためと考えられる。
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