研究概要 |
上・下顎第一大臼歯の咬頭の大きさの遺伝的変異性を分析した。材料はヨーロッパ系オーストラリア人双生児の石膏模型152組である。その内訳は一卵性双生児(MZ)81組,同性の二卵性双生児(DZ)41組,異性二卵性双生児(OS)30組である。咬合面観の写真上で各咬頭の面積を計測した。双生児ペア間の級内相関はMZでは0.493〜0,926で,0との検定ではすべての計測項目で有意となった。同性DZでは-0.058〜0.796,OSでは-0.076〜0.527であった。DZでは相関係数が有意とならない項目が多数あった。以上よりMZはDZに比べて相関が高く,歯冠面積には環境要因より遺伝要因が強く影響していることが示唆された。男女間の分散パターンに異質性はなかったので男女のデータをプールして共分散構造分析を行った。上顎大臼歯の2つの咬頭(プロトコーンとメタコーン)を除いてAEモデル(相加的遺伝要因と非共有環境要因)が最も適合していた。プロトコーンとメタコーンは赤池の情報基準量によってCEモデル(共有環境要因と非共有環境要因)が選択され,遺伝要因の寄与が検出できなかった。遺伝率は上顎では47〜84%,下顎では62〜85%で,下顎の方がやや高い傾向があった。歯冠全体の面積では比較的高い遺伝率を示した。各咬頭は歯冠全体よりはやや低く,近心より遠心の歯冠ユニットがやや高い値を示した。最も低い遺伝率を示したのはパラコーンであった。この結果からパラコーンは進化的に最も安定した咬頭であり,遺伝的変異性が小さいことが示された。
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