研究概要 |
本研究は,ヒトの触覚の感覚特性を明らかにするために,空気圧制御による圧力刺激呈示システムを製作し,これを用いて力の弁別閾の特性についてヒトの手が知覚可能な最小の力の変化量を調べることを目的とするものである.本年度は構築した空気圧提示装置を用いて,刺激の立ち上がり時間を変化させた場合における力の弁別閾変化の傾向を調べることで,皮膚感覚特性を明らかにすることを目的として実験を行った.実験は一対比較法により行った.噴射の位置は右手示指先腹部の中心部とした.被験者には視覚・聴覚を遮断するために耳栓とアイマスクを装着し,さらにヘッドホンを装着した上で遮断音を流した.また,ノズルと指の距離は予備実験によりもっとも空気噴流のバラツキの少ない5mmに設定した.標準刺激2秒提示,無刺激インターバル3秒,比較刺激2秒提示,無刺激回答時間7秒を1試行として,各比較刺激に対して各10回ずつの合計90回行った.無刺激時間7秒の間に,被験者には「大きい」,「小さい」,「同じ」のいずれかを感じたかを回答してもらった.その結果,刺激の立ち上がり時間を長くするとWeber比と弁別閾は増加する傾向が見られた.この原因は,力を皮膚変位により検出する機械受容器にあると考えられた.先行研究から,遅順応型と速順応型の機械受容器を含めた全体での力に対する反応量は,刺激の立ち上がり時間を長くするにつれ減少することが明らかになっており,本結果はこの先行研究を支持するものである.また,Weber比は本実験での各刺激の立ち上がり時間において0.10程度に収束することが分かった.これは,昨年度の標準刺激4.0gf〜7.0gfの傾向と同様であった.また,昨年度の結果では刺激の立ち上がり時間を0.3secと設定していたことから,本年度の実験における刺激の立ち上がり時間0.3secの実験結果と比較すると約0.20の違いがあるが,これは提示時間の違いによるものだと考えられる.
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