リンゴ果実の日持ち性には大きな品種間差があり、その中でも‘ふじ'は抜群の日持ち性を有する。1984年弘前市の農家で発見された早熟性化芽条変異体(枝変わり)‘ふじ'が‘ひろさきふじ'と命名され弘前市農協が普及販売している。‘ひろさきふじ'は‘ふじ'よりも果実成長が早く収穫時期が一カ月ほど前となることから、高値で取引されている。しかし、‘ひろさきふじ'の日持ち性は劣る。そこで、‘ふじ'の日持ち特性を分子レベルで解明することを目的として、‘ひろさきふじ'と‘ふじ'の完熟進行様式の違いを検討した。 ‘ひろさきふじ'および‘ふじ'では収穫適期約25日前にエチレン生産の開始が確認された。当初はほぼ同程度であったが、その後の上昇、すなわち適期収穫果実を24℃で静置した場合のエチレン発生量は‘ひろさきふじ'の方が高く推移した。硬度の低下は‘ふじ'では確認されなかったが、‘ひろさきふじ'では急激に低下した。RNAゲルブロット解析から‘ひろさきふじ'ではACO1とACS3が‘ふじ'より強く発現した。一方、PG1(ポリガラクチュロナーゼ)は‘ひろさきふじ'にのみ強いシグナルが得られ、これが硬度変動に強く関連しているものと推察された。サブトラクション実験から、‘ひろさきふじ'をテスターとした場合に、α-Mannosidaseをはじめとする20種のcDNAが同定された。これらのほとんどがトマトなどの完熟過程に関わるもの、またはエチレンに関連する遺伝子と報告されているものであった。 以上の知見から、‘ひろさきふじ'では収穫適期のおよそ14日前には完熟に関わる遺伝子の一部が発現を開始している事実が判明した。
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