I遺伝子を有するダイズは種皮着色が抑制され黄ダイズになる。現在、栽培ダイズのほとんどが黄ダイズであるが、その栽培集団中にIからiへの劣性突然変異の起きることがある。この劣性突然変異体(変異体と省略)は、i/i遺伝子型において、着色粒を生産することから黄ダイズ品種における種子品質の均一性を著しく損なうことになり、黄ダイズの育種上、重要な問題である。本研究はこの突然変異の分子メカニズムを明らかにすることが目的である。近年、I遺伝子による種皮着色抑制が色素合成のキーエンザイムであるカルコンシンターゼをコードする遺伝子(CHS遺伝子と省略)の転写後型ジーンサイレンシング(PTGSと省略)であることが我々の研究から明らかになった(Senda et al.2004)。その一方で、変異体においてはCHS遺伝子の1つであるICHS1領域に構造変異の起きていることが示唆されている(Senda et al.2002)。本年度は以下の知見が得られた。 1.黄ダイズ品種であるトヨホマレ(TH)とその変異体(THM)間では、サザンハイブリダイゼーションによる比較解析から、ICHS1の途中から上流域にわたる約3.3kb領域がTHMゲノムでは欠失していることが示唆されている。今回、新たに5種類の制限酵素を用いたブロットについて同様の比較解析を行ったところ、本結果を支持するデータが得られた。 2.THMで欠失した3.3kb領域のうち、未知領域である2kb領域をインバースPCR法を用いてクローン化を行い、3.3kb欠失領域の全塩基配列を決定した。その結果、欠失領域内にCHS遺伝子のインバーテッドリピート配列(IRと省略)が見出された。IRが転写された場合、そこから形成される2本鎖RNA領域がPTGSを引き起こすことが今まで多く報告されており、今回発見されたCHS遺伝子のIR配列はI遺伝子である可能性が強く示唆された。
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