I遺伝子を有するダイズは種皮着色が抑制され黄ダイズになる。現在、栽培ダイズのほとんどが黄ダイズであるが、その栽培集団中にIからiへの劣性突然変異の起きることがある。この劣性突然変異体(変異体と省略)は、i/i遺伝子型において、着色粒を生産することから黄ダイズ品種における種子品質の均一性を著しく損なうことになり、黄ダイズの育種上、重要な問題である。本研究はこの突然変異の分子メカニズムを明らかにすることが目的である。本研究によりI遺伝子の候補領域であるGmIRCHSが明らかにされた。今年度の研究成果の概要は以下の通りである。 1.I遺伝子は種皮においてCHS遺伝子の転写後型ジーンサイレンシング(PTGS)を誘導することによって着色抑制を引き起こすと考えられている。CHS遺伝子はフラボノイド生合成に重要な酵素であることから、黄ダイズ植物体すべての組織において、I遺伝子が恒常的に作用するとは考えにくく、種皮特異的であることが示唆されている。本研究ではGmIRCHSプロモーター領域の組織発現を調査するため、プロモーター領域をレポーター遺伝子であるGUS遺伝子に連結したプラスミドを構築し、アラビドプシスに導入した。これらのトランスジェニックアラビドプシスについて、GUS染色を行うことにより、組織発現を調査した。その結果、種皮での特異的な発現は見出されなかった。 2.トヨホマレから見出された変異体(THMと表記)は十勝農業試験場で発見されたものである。本研究では、異なる場所(サロマ試験地)で発見されたトヨホマレ変異体についてもGmIRCHS領域の構造を調査し、THMと比較した。その結果、両者ともにGmIRCHSに構造変異が起きていたものの、その構造変異パターンは全く異なることが判明した。このことから、I遺伝子の突然変異パターンは品種特異的ではないことが示唆された。
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