近縁野生種 Aegilops crassa 細胞質置換コムギ系統では、雄ずいが雌ずいへとホメオティックに変化(pistillody)する。このように、細胞質因子による花器官のホメオティック変化は、コムギの他にタバコやニンジンでも知られ、cytoplasmic-homeosisと呼ばれる。これまでの研究により、Ae.crassaミトコンドリアゲノムにpistillody原因遺伝子(Ms遺伝子)が存在すること、コムギ品種「Chinese Spring」(CS)の7B染色体長腕に座乗する稔性回復遺伝子(Rfd1)によってpistillody誘発が抑制されること、「農林26号」(N26)などいくつかの品種では、短日条件下で作用する未同定の稔性回復遺伝子(Rfd2)により、長日条件下でのみpistillodyが起こること(日長感応性細胞質雄性不稔(photopedod-sensitive cytoplasmic male sterility:PCMS))、pistillodyの直接的原因は細胞質置換系統におけるクラスB MADSボックス遺伝子発現パターンの変化であること、を明らかにしている。本研究では、以下の成果を得た。 1.ミトコンドリアMs遺伝子の候補として、ORF260を同定した。 2.ミトコンドリアMs遺伝子からのシグナルを核のMADSボックス遺伝子に伝達する因子として、新規のタンパクキナーゼ遺伝子(WPPK1:wheat pistillody-related protein kinase 1)を同定した。また、雌ずい化した雄ずい内部の異所的胚珠形成にクラスD遺伝子が関与することを見い出した。 3.Rfd1遺伝子近傍の32個のRAPDマーカーを見出した。 4.「フクオトメ」の遺伝的背景を持つ優良PCMS系統を育成し、花粉親6品種のF1を調査した。
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