研究概要 |
高等植物のミトコンドリアゲノムは、一般に母性遺伝性を示すことが、ナタネのミトコンドリアプラスミドは、ミトコンドリアゲノムは母性遺伝をするにもかかわらず、父親からも次代へ伝達される。本研究では、ナタネミトコンドリアプラスミドが示すこの特異な遺伝性の機構解明を目的として、ナタネ種内での交配による次代への伝達性及びナタネとナタネ以外のBrassica属植物との交配による次代への伝達性を調査した。また、日本のナタネ品種の育種過程を追った系統解析を行い、プラスミドの伝達及び保持の状況、あるいは、プラスミドの起源を調査した。 ナタネの種内交配あるいはナタネとB.rapa, B.junceaとの種間交配を行ったところ、種内のみでなく、種間交配においてもプラスミドの父親からの伝達が認められた。プラスミドの父性伝達率は種内交配で72.9%、種間交配では69.8%で、交配次世代への伝達には種内・種間で差がなかった。また、次代のミトコンドリアゲノムはすべて母親型を示し、プラスミドとゲノムの遺伝性はまったく異なることが確認された。 日本品種の系統解析の結果、ミトコンドリアプラスミドを持つ品種はすべてナタネとB.rapaとの種間交配に由来しており、プラスミドはすべてB.rapaに起源し、育種の過程でナタネへ持ち込まれたものと推測された。また、両親にプラスミドがあるにもかかわらず、後代品種がプラスミドを持たない場合、あるいは父親がプラスミドをもちながら、後代品種がプラスミドを持たない場合も観察された。 交配実験での高い伝達率と、後代品種でのプラスミドの保持・不保持の例とを考え合わせると、プラスミドの遺伝性は、次代植物体への花粉からのプラスミドの伝達と、その後代系統におけるプラスミドの維持という二つの因子から構成されており、特に後者には、核あるいはミトコンドリアゲノムの関与があるものと示唆された。
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