研究概要 |
エネルギーの移動によって生じる一重項酸素は光の照射にともなって起こる光酸化(正確には、光増感酸素酸化)でも生じるために光老化をもたらす重要な要因となっている。この研究では、化学的には未同定ではあっても光酸化抵抗性機能を有する遺伝子型を簡易に評価する方法を確立して、育種プログラムの特性検定試験に取り入れることを可能にすることをねらった。 たえず強い光ストレス環境下におかれて進化してきた作物は一重項酸素をクエンチングする化学物質を多量に合成して自らの老化を阻止していると推察されるので、それを材料にして評価することは機能性食品の素材となる作物を育種する上で極めて重要と考えられる。最もよく知られている一重項酸素のクエンチャーはβ-カロチンであるが、これ以外のさまざまな物質が関与して協奏的に働いていると推察されるので、単一の物質に特定せずに総合的な機能の評価が望まれる。これまで、光酸素化酸化(光酸化)に対する抵抗性の器官間差異を調査してきた。同一環境で栽培して,開花初期と後期の作物体を葉,茎,花器(果実を除去した開花中の小花と蕾),果実に分離し,蒸留水で煮沸した(1g/30ml)。一重項酸素種(^1〓g)はYAGレーザーによる時間分解近赤外分光分析によって評価した。他方、過酸化水素の消去活性は,化学発光のフォトンカウンティングによって評価した。花器の抽出液の一重項酸素寿命は葉,茎,種子よりも短かった。過酸化水素の消去活性は葉と花器の抽出液で高く,また普通ソバはダッタンソバより高い傾向であった。一重項酸素の寿命と過酸化水素消去活性は有意な負の相関関係があった。これにより、抗老化機能を保有した食品素材の育種が促進される効果が期待された。 現在は、光酸素化酸化をもたらす光合成に注目し、その能力をモニタリングしようとして研究している。具体的には、明反応ではは光増感剤であるクロロフィルa、クエンチャーであるキサントフィル、カロテン、暗反応では光合成を律速するRubiscoである。現在、クロロフィルの紫外励起蛍光分析による非破壊同定が完了し、Rubiscoの非破壊分析を模索した。その結果は紫外レーザー励起蛍光分析(LIF)によってRubiscoも推定が可能との結果を得た。
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