研究概要 |
日本の北方地域、とくに北海道の植生は本州のそれと大きく異なっており、都市周辺部においても北方地域特有の美しい野生草花の大群落を目にすることができる。本研究は、北方地域における鑑賞価値の高い自生植物の中でもとくに種子が散布されてから,子葉が地上に出芽するまでに2度の冬を必要とする植物について、それらの発芽生態と種子休眠機構を明らかにするとともに、種子から人為的に増殖する際の実用的な知見を得ようとするものである。 昨年までの研究によってオオウバユリは,種子散布の時期には未発達の小さな胚を持ち,種子散布から発根までに18ケ月,そして子葉の出芽までに19ケ月を必要とし,その休眠はDeep simple morphophysiological dormancyに分類できることを明らかにした。本実績報告書では,種子の播種から発根,出芽までの期間を短縮するための温度条件,種子の貯蔵の可能性,そして播種時期が出芽に及ぼす影響について報告する。 オオウバユリの種子は,25/15℃(60日)→15/5℃(30日)→0℃(120日)→15/5℃の温度推移によって,自然条件下では18ケ月を必要とする播種から発根までの期間を,7〜8ケ月に短縮することができた。また,種子は乾燥5℃で貯蔵することによって少なくとも12ケ月間は貯蔵可能であるが,乾燥25℃や無乾燥室温貯蔵では出芽率が1%以下に低下した。秋に採取した種子を乾燥5℃で貯蔵しておき,翌年の7月までに播種した種子は,次の年の春に88%以上が出芽したが,翌年の8月以降に播種すると,翌年の春にはわずかしか発芽しなかった。オオウバユリの種子は,胚が生長して発根に至るまでに,高温→中温→低温→中温という一連の温度条件を必要とするために,8月以降に播種した場合は,十分な高温の期間が与えられないことによって,発芽できなくなったと考察した。
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