研究概要 |
収穫された青果物はその置かれた様々な貯蔵環境により品質の変化が生じ,その鮮度,内容成分に大きく影響を及ぼすことが知られている。本研究で使用した長門ユズキチ果実(山口県原産の香酸柑橘)は,収穫後常温で保持すると果皮の脱緑が生じるため,長期間に渡っての利用を考慮すると低温貯蔵が望ましい。しかしながら,低温下に置かれた果実は低温障害(果皮の陥没・褐変)を発生し,かえって品質低下を招くこととなる。そこで本研究では収穫後に高温処理を行い,低温障害の抑制を試みた。また,褐変障害の発生機構についても検討した。 1.2℃貯蔵された長門ユズキチ果実は,対照区(7℃)に比べ顕著に低温障害(果皮の陥没・褐変)の発生がみられた。障害部位を走査電子顕微鏡で観察したところ,果皮の柔組織細胞の崩壊が認められた。 2.低温障害の発生時に果皮組織からのカリウムイオン漏出の増加がみられ,障害発生に伴い生体膜変化が生じていることがわかった。 3.過酸化水素含量が2℃貯蔵で増大し,低温障害発生の要因として活性酸素の生成が関与しているものと推察した。 4.低温障害の発生・進行に伴い,果皮の還元型アスコルビン酸およびフェノール化合物など抗酸化物質含量の減少が認められた。 5.低温障害発生に相前後して果実内エチレン生成の増加,フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)活性の増大,また褐変に関与するポリフェノールオキシダーゼ,ペルオキシダーゼ活性の増大が認められた。 6.2℃貯蔵に伴いPAL酵素遺伝子の発現がみられ,その後PAL活性の増大することがわかった。 7.収穫後の高温処理(35℃での1〜3日処理,コンディショニング)は,低温貯蔵での障害発生の抑制・軽減がみられた。 今後,高温処理による低温障害発生抑制機構(香酸柑橘,キュウリ果実使用)について,さらに,ブロッコリー花蕾の高温処理による脱緑抑制機構について調査する予定である。
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