研究概要 |
周縁キメラによる育種は,カンキツ類の果実形質を改良する技術として注目されている.八幡ら(2004)はキンカンの珠心胚へのコルヒチン処理により倍数性周縁キメラ個体を作出したが,その頻度は低いものであった.そこで,平成17年度は,試験管内接ぎ木を応用したマイクロサージェリー法によるキメラ植物体の作出について検討し,接ぎ木組織からのカルスや不定芽分化過程について観察した. 材料には,四倍体と二倍体のニンポウキンカン(Fortunella crassifolia Swingle)の実生の胚軸を供試した.マイクロサージェリー法により胚軸を加工し,試験管内で接ぎ木を行った.まず,接ぎ木組織からの不定芽分化に及ぼす植物成長調節物質の影響について検討した.得られた不定芽は,フローサイトメトリーにより倍数性の評価を行った.さらに,カルスや不定芽分化過程の組織学的観察を行った. マイクロサージェリー法により接ぎ木を行ったところ,約7日後からカルス形成が見られ,20日以降に両胚軸のカルス癒合が認められた.約30日後には不定芽の形成が観察された.不定芽分化に及ぼす植物成長調節物質の影響について調査したところ,1mg・liter^<-1> 6-benzylaminopurine(BAP)を添加した1/2濃度Murashige and Tucker培地で不定芽形成率が最も高かった(95%).得られた不定芽の倍数性評価を行った結果,二倍体と四倍体がそれぞれ54.5%と27.2%であり,キメラ植物体は獲得できなかった.しかし,接ぎ木部分におけるカルスの倍数性を評価したところ,二倍体と四倍体のピークが観察された.このことから,今後,形成される不定芽の中にはキメラ個体が発生してくる可能性があるものと思われる.
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