研究概要 |
環境省編纂のレッドデータブックにみるように,国内では絶滅危惧植物が年々増えている。このような状況にあって種の多様性の観点から,有性繁殖,すなわち種子繁殖による遺伝資源の保存は重要な課題である。本研究は未だ明らかにされていない種の種子繁殖習性を明らかにするために,野外調査と室内実験を行った。研究対象植物をカタクリ(Erythronium japonicum)と,ウバユリ(Cardiocrinum cordatum var.glehnii)とした。カタクリは春植物であり,里山の林床を彩る代表的な種である。ウバユリは,北方の林床や林縁を彩る大型の花をもつことで観賞価値が高い。野外調査ではこれらの植物が生育している現地に赴き,その場所の温度や水分条件について調査した。室内実験では,採取した種子を9cmのシャーレに置床して10〜30℃に設定した人口環境気象器に置いた。結果は定期的に発芽率を数え,種子発芽曲線を描いた。その結果カタクリはその種子の発芽のためには夏季の暖温を必要とすること,しかもその暖温は極端な高温(約30℃)を好まないこと,晩春に結実,散布して秋から冬にかけて発芽することが明らかとなった。ウバユリの種子発芽は,1年以上,最長2年近くを要すること,低温(約10℃)でしか発芽しないことがわかった。これらの研究対象種は,林床や北方に多く生育分布し,種子発芽習性とその生育環境とに密な関連があることがわかった。
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