研究概要 |
レッドデータブックの編纂(環境省)にみるように,様々な人間活動の拡大による植物の減少・絶滅が際立ってきた。この状況に対して,生育している個体そのものやその生育地を守る対策,さらに組織培養による増殖法の開発等が行われてきている。そのうち,種子による遺伝資源の保存は,有性生殖の特性を生かすことができるので,最も自然の法則にかなった手法であると考えられる。これまでレッドデータブックに上げられることも多い日本産ユリ科植物数種について,種子繁殖習性を調べ,遺伝資源として保存するための基礎的知見を集めてきた。本年は特に,これらのデータを集め,まとめ,学位論文として発表した内容を出版物として刊行した。併行して実験や野外調査によって明らかにした新知見を学会で発表した。その主な内容は,(1)ユリ科のうちのクサスギカズラ亜科の種子の発芽の際の芽ばえを観察すると,エンレイソウとタケシマラン,ツバメオモトは,線形子葉(子葉が線形で,子葉の先端部に種皮が付き,種皮,幼根,第一葉の基部は離れる)であるのに対して,その他のスズラン,オモト,マイヅルソウ,アマドコロ,ホウチャクソウは球形子葉(子葉が球状で,種皮と子葉,第一葉,幼根の四者が基部で極接近し,多くは子葉全体が種皮に包まれる)であること,(2)ギボウシ種子は湿潤状態で貯蔵すると約1ヶ月で発芽力を失い,乾燥条件下で貯蔵すると約1年で発芽力を失う等の新知見である。なお,本研究の成果の一部は,2007年5月上旬に行われるISTA (International Seed Test Association)ブラジル大会にて発表する。
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