トリコテセン生合成経路の分子状酸素付加ステップのうち、対応するシトクロムP450モノオキシゲナーゼ遺伝子(CYP遺伝子)が未同定のものを単離することを試みた。まずFusarium graminearumの全ゲノムデータベースから見出された135個のCYP候補のうち、毒素生産時特異的に発現しかつ近縁の毒素非生産菌には存在しない遺伝子を5つ同定した。それぞれの遺伝子を標的破壊してCYP欠損株を作成したが、いずれも野生型株と同様に4-acetylnivalenolを生産した。この結果から、未同定の酸素付加ステップを担う生合成遺伝子は構成的に発現しているか、既知の生合成遺伝子が複数の酸素付加ステップを担っているか、のいずれかである事が示唆された(Tokai T et al.2005)。そこでCYPをコードする既知の生合成遺伝子Tri4とTri1の機能を検証した。 1、FgTri1またはFsTri1を発現する組換え酵母に中間体calonectrinをフィーディングした(FgはF.graminearum、FsはC-7が水酸化されないT-2 toxin生産菌Fusarium sporotrichioidesに由来することを表す)。より親水性の増した変換産物が前者からは2つ、後者からは1つ検出された。このことからFgTri1はC-8の水酸化に加え、C-7の水酸化にも関与する事が示唆された。 2、Tri5とTri4を共発現する組換え酵母培養液の代謝産物を解析したところ、コントロール酵母では見られない代謝産物が複数検出された。さらにこれらの代謝産物は経時的に移行した。このことから、Tri4は中間体trichodieneに複数の酸素を順次付加していく多機能CYPをコードしていることが示された。
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