フェロモンや寄主植物由来の匂いは、総合的害虫管理にも取り入れられ、重要な防除手段となりつつある。この研究の目的は、昆虫の模擬飛行装置(フライトシミュレータ)の開発を通して、飛行中の昆虫が環境から受ける視覚と嗅覚情報の時間的、空間的な文脈と、それに応じた昆虫の行動とを、高精度に関連付けることにある。フライトシミュレータ上で仮想匂い源へ誘導できたならば、昆虫の匂い源探査飛行の基本原理が解明されたと言えよう。 平成17年度の研究実績として、高感度ガス検出システムの構築と、光学センサを使ったフライトシミュレータの試作の2点があげられる。環境中で匂いが拡散する際には、繊維状の空間構造を保ちながら風下へと展開するため、飛行中の昆虫は匂いの信号をパルス状に受信するはずである。この時系列パターンを記録して、フライトシミュレータ内で再現するためには、光イオン化検出器(PID)による匂いモデルガスの高感度記録が必須であった。目的に合った諸元を満たす唯一の装置はAurora Scientific(Canada)社製のmini PIDであったが、製造上の不具合から納入時期が遅れ、現在は計測記録システムを構築した段階にある。プロピレンガスを使った試運転では所期の性能を示した。この種の高感度ガス測定器の導入は、我国ではこれが最初である。 フライトシミュレータは、風と匂いを送る風洞、虫の動きを検知するセンサ、パターンの流れをスクリーンに投影する液晶プロジェクタとコンピュータから構成される。昆虫の飛行中の運動出力をモニターする方法として、揚力と推進力を直接測定する方法と、昆虫の姿勢をモニターして間接的に進路を推定する方法が考えられる。本年度は、供試昆虫のカイコ♂成虫の尾端の動きをフォトダイオードセンサで検出し、パターンの流れとして視覚的にフィードバックする方法を試行した。
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