本研究で開発を試みたフライトシミュレータは、飛行昆虫の化学定位行動を研究する目的に沿ってデザインされていなければならない。そのためフライトシミュレータのハードウェア・ソフトウェアの開発とともに、昆虫が飛行中に受ける嗅覚刺激を実験中に正確に再現する匂い刺激装置の開発も主要な研究内容となっている。飛行履歴の記録から各種の運動パラメーターを求めるデータ解析プログラムの開発もまた必要である。研究計画記載のこれら3項目について並行して作業を進めたところ、2年間の研究期間では結果的に不充分であり、システムとしての完成には至らなかった。計画したフライトシミュレータ本体は、風と匂いを送る風洞、虫の動きを検知するセンサ、視野の流れを投影する液晶プロジェクタ・ディスプレイと、虫の動きを記録しさらに画像の動きとしてフィードバックをかける計測制御用コンピュータから構成される。計測制御用プログラム言語にLabView(N.I.社)を採用して、装置のリアルタイム制御プログラムを自作した。まず飛行中の昆虫の姿勢から、進路を類推する方式を採用した。すなわちカイコ♂成虫の尾端の動きをフォトダイオードセンサで検出して、PCのゲームポートから入力する。この方法では羽ばたきによる推進力の検出は原理的に不可能なので、常に一定速度で前進しているものとして、尾端の曲がる角度を転回角速度に反映させた。次に懸架した昆虫の発する揚力と推進力を直接測定する方法について検討した。この方法ではソフトウェアの開発はほぼ完成したものの、結局、稼動できるハードウェアまでには至らなかった。一方、匂い刺激装置については、さらなる知見を加えてミリ秒単位の制御が可能な装置が完成し、成果発表に至った。また移動運動データ解析プログラムの開発を進め、GUIを充実して作業性を向上させた。研究成果報告書にはこれら3項目の内容を合わせて記載した。
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