本研究は、細胞分化の機能を有する細菌の中で最もゲノム解析の進んだ枯草菌を用い、胞子形成に伴う母細胞死における形態変化・意義・メカニズムを解明することを目的として行なった。1)胞子形成に伴う細胞死プロセスについて、蛍光タイムラプス顕微鏡を用いて経時的に詳細な観察を行ない、蛍光染色された細胞膜、DNAなどの細胞内巨大分子の崩壊過程を明らかにした。母細胞死は、細胞壁溶解が引き金となると考えられていたが、我々の観察研究結果より、細胞膜の崩壊が最初に観察され、その後細胞壁が溶解することが、鮮明な画像として観察された。細胞壁は、母細胞膜崩壊後もフォアスポアを保護し、この間胞子はさらに成熟するのでは無いかと考えられた。2)細胞壁溶解酵素の変異株(cw1BCH)を用い、母細胞壁が残存した場合の影響について調べた。顕微鏡下で変異株の、細胞壁が胞子に付着した状態での発芽をタイムラプス顕微鏡下で調べたが、発芽後成長が野生株に比べ若干遅れる傾向があることが観察されるものの、大きな影響を与えるものではなかった。この結果は、母細胞死の形態観察結果からも考えられたように、母細胞壁は胞子成熟の最終ステージまで残存することが重要であり、残存した場合でも発芽成長するためには大きな障害とはならないことが示唆された。3)細胞死のメカニズムを解明するために、外部環境要因の母細胞死への影響について調べた。培養液中のpHまたは浸透圧を変化させるなど、外部環境を変化または一定に保つなど試みたが、細胞死には変化無く外部環境変化は母細胞死のタイミングには影響を与えないとの結論に達した。したがって、細胞内のエネルギー状態が、胞子形成を決定づけるものと考えられ、胞子形成とエネルギー量との関係の重要性が示された。現在、エネルギー産生に重要な酵素と胞子形成との関係について詳細な解析を行なっている。
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