前年度、胞子形成に伴う母細胞死のプロセスについて、細胞内巨大分子の崩壊過程を明らかにした。また、エネルギー量の低下が母細胞死と関係する可能性が示唆され、胞子の成熟と母細胞死に至るまでに必要なエネルギー産生に伴うエネルギー源量の低下と母細胞死の関係を解明することが、母細胞死のメカニズムを解明するために必要であると考えられた。その解析の初期段階として、枯草菌の呼吸システムに着目し、特にエネルギー産生に必要な呼吸鎖の入り口部分に相当する最も重要な酵素、NADH脱水素酵素をコードする遺伝子の発現調節機構を調べた。まず、NADH脱水素酵素をコードする遺伝子の一つであるyjIDの変異株において栄養増殖期の生育が著しく低下することを見出した。さらに、この変異株においてNADH/NAD^+比が著しく上昇したため、YjIDが主要なNADH脱水素酵素と示されNdhと名付けた。次に、ndhの転写を調べたところ、ndh遺伝子は、NADH/NAD^+比を感知し、レプレッサーとして働くことが推定されるRexにより、調節されることを明らかにした。我々は、NADH/NAD^+比を変化させ、RexのDNA結合能を調べ、その結果、NAD^+によりRexのDNA結合能が上昇し、ndhの転写を負に制御することを明らかにした。この結果から、ndhとRexを介したNADH/NAD^+比の制御ループが存在することが示された。今後、この胞子形成期の母細胞内の呼吸系酵素の遺伝子発現調節機構を調べることにより、エネルギー産生と母細胞死との関連が明らかになると期待された。
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