生物の有する恒常性のひとつとして様々な環境条件に適応すべく、自らの細胞膜組成を変化させて膜の流動性を維持することが挙げられる。この細胞膜の組成変化の中で脂肪酸の不飽和化反応による変化は、細胞膜の機能に深く関わる流動性を劇的に変えるため、生物において重要な反応の1つである。そこで本研究では、温度、溶存酸素量などの生育環境の変化における脂肪酸不飽和化酵素退伝子群(Sk-OLE1、Sk-FAD2、Fk-FAD3)の発現制御メカニズムを詳細に明らかにする。昨年度の研究において、S.kluyveriの3つの脂肪酸不飽和化酵素遺伝子は全て不飽和脂肪酸には応答しないことがわかり、また、これら3つの遺伝子は全て低酸素環境下で転写発現が変化し、そのパターンは遺伝子毎に異なることも明らかにした。更に遺伝子破壊株を用いた研究でSk-FAD2、Sk-FAD3遺伝子の低温に対する応答はそれぞれ単独で一過的な増加とその後の減少が起こるのに対し、Sk-OLE1遺伝子は低温ストレスだけでなく、細胞内で合成される不飽和脂肪酸の状況やそれらを構成成分とする細胞膜の状況に応じてその転写量が増加していることが示唆される結果を得た。そこで平成18年度は、平成17年度の研究成果をもとに、低温環境下におけるS.kluyveriの脂肪酸不飽和化酵素遺伝子群の発現制御領域(シス因子)の特定を中心に研究を行った。その結果、Sk-OLE1遺伝子の上流228-172bpの間に低温誘導に必要な領域が存在していることが示唆され、また、この領域内にはSTRE(stress response element)と呼ばれている5 '-CCCCT-3'という短い配列が含まれていることがわかった。このことからSTREがSk-OLE1遺伝子の低温ストレス誘導に関与している可能性も考えられた。Sk-FAD2遺伝子については、この道伝子の上流326-209bpの間に低温誘導に必要な領域が存在していることが示唆された。この領域内にはT-rich領域がみられたが、Sk-FAD2遺伝子の上流228-172bp内と共通する配列はみられなかった。そして、Sk-FAD3遺伝子に関しては、Sk-FAD3遺伝子の上流207-145bpの間に低温誘導に必要な領域が存在していることが示唆され、また、この領域内にはCCAAT配列がみられた。しかしながら、Sk-FAD3遺伝子の転写誘導街域には、Sk-OLE1遺伝子やSk-FAD2遺伝子の上流の転写誘導街域と共通する配列はみられなかった。
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