酵母Saccharomyces kluyveriがどのようなストレス環境に置かれた時に脂肪酸不飽和化酵素遺伝子群(Sk-OLE1、Sk-FAD2、Sk-FAD3)の転写発現が応答するのか、そしてそれらの転写発現制御に関わるDNA領域(シス因子)はプロモーター領域上のどこに存在するのかを明らかにするために研究を行った。その成果を以下に示す。 1)S. kluyveriの3つの脂肪酸不飽和化酵素遺伝子は全て不飽和脂肪酸には応答しないことが明らかとなった。 2)S. kluyveriの3つの脂肪酸不飽和化酵素遺伝子は全て、低酸素環境下で転写発現が変化し、そのパターンは遺伝子毎に異なることが明らかとなった。 3)Sk-FAD2、Sk-FAD3遺伝子の低温に対する応答はそれぞれ単独で一過的な増加とその後の減少が起こるのに対し、Sk-OLE1遺伝子は低温ストレスだけでなく、細胞内で合成される不飽和脂肪酸の状況やそれらを構成成分とする細胞膜の状況に応じてその転写量が増加していることが示唆された。 4)Sk-OLE1遺伝子の上流228-172bpの間に低温誘導に必要な領域が存在していることが示唆された。また、この領域内にはSTRE(stress response element)と呼ばれている5'-CCCCT-3'という短い配列が含まれており、STREがSk-OLE1遺伝子の低温ストレス誘導に関与している可能性も考えられた。 5)Sk-FAD2遺伝子の上流326-209bpの問に低温誘導に必要な領域が存在していることが示唆された。この領域内にはT-rich領域がみられたが、Sk-FAD2遺伝子の上流228-172bp内と共通する配列はみられなかった。 6)Sk-FAD3遺伝子の上流207-145bpの問に低温誘導に必要な領域が存在していることが示唆された。この領域内にはCCAAT配列がみられたが、Sk-OLE1遺伝子やSk-FAD2遺伝子の上流の低温応答領域と共通する配列はみられなかった。 以上の研究成果により、酵母S. kluyveriのストレス応答機構の一角が明らかとなった。
|