キチナーゼの基質であるキチンは結晶性で強固な不溶性多糖であり、結晶性キチン分解機構の解明はキチナーゼにとってきわめて本質的な課題である。この機構を解明するために、結晶性キチン分解活性の高いBacillus circulans WL-12のキチナーゼA1を用いて、これまで主にキチナーゼを構成するドメイン上のアミノ酸残基の機能に着目して研究を行ってきた。今回は、結晶性キチン分解機構のより本質的な理解を目指して、より高次の構造に着目して以下のような研究を開始し、既に重要な成果が得られつつある。 1)オーバーハングループの結晶性キチン分解における重要性。 結晶性キチン分解活性が高いキチナーゼは深い活性クレフトを持つ。そして、キチナーゼA1の活性クレフト上部にはクレフトに覆いかぶさるように突き出たループ構造が存在し、結晶性キチン表面からのキチン鎖の保持やキチン表面との接触に重要な役割を果たしていると予想される。このループ構造の欠失変異体を作成した結果、予想した通り結晶性キチン分解活性が顕著に低下することがわかった。現在、このループ欠失変異キチナーゼのより詳細な解析が進行中である。 2)結晶性キチンにのみ特異的に吸着するキチン吸着ドメインの吸着機構。 キチナーゼA1のキチン吸着ドメインは結晶性(あるいは不溶性)のキチンに特異的に結合するユニークなキチン吸着ドメインであり、その立体構造からもキチンの結晶構造を認識する新規の吸着機構を持つことが予想される。この吸着機構を探る目的で、吸着に関与する新たなアミノ酸残基の探索した結果、新たにGln679がキチン吸着に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。 3)キチナーゼA1の全体構造。 キチナーゼA1を構成する個々のドメインの立体構造は明らかになっているが、それらがどのように立体的に配置して結晶性キチンを分解しているのかは明らかでない。そこで、まずX線小角散乱の手法を用いてキチナーゼA1分子の溶液中の全体構造の解明を試みた。その結果、キチナーゼA1は水溶液中で長く延びたパイプ状の構造をしていることを明らかにすることが出来た。
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