研究概要 |
キチナーゼの基質であるキチンは結晶性で強固な不溶性多糖であり、結晶性キチン分解機構の解明はキチナーゼにとってきわめて本質的な課題である。これまではBacillus circulans WL-12キチナーゼA1を構成するドメイン上の、アミノ酸残基の機能に着目して研究を行ってきたが、本研究ではより高次の構造にも着目してより本質的な理解を目指した。 1)オーバーハングループの結晶性キチン分解における重要性。 キチナーゼA1の活性クレフト上部には、覆いかぶさるように突き出たループ構造が存在する。昨年度、このループ構造の欠失変異体を作成した結果、このループが結晶性キチン分解に重要な役割を果たしていることがわかった。このループの機能のより詳細な解析のため、結晶化を目的に大量調製を試みた。しかし、ループ欠失によってタンパク質の性質が変化し、精製過程で不溶化が起こってしまい、立体構造解析にはいたらなかった。 2)結晶性キチンにのみ特異的に吸着するキチン吸着ドメインの吸着機構。 キチナーゼA1のキチン吸着ドメインは結晶性キチンに特異的なユニークなキチン吸着ドメインである。昨年度の実験によって、キチン吸着に重要な役割を果たす新たなアミノ酸残基Gln679が同定された。この残基を種々のアミノ酸残基に置換した結果、側鎖の極性・長さ・向きいずれも重要であり、さらに他のアミノ酸残基が吸着へ関与することが示唆された。 3)Serratia maecscensキチナーゼBの露出した芳香族アミノ酸残基の機能。 S.maecscensキチナーゼB表面には活性クレフトに向かって並ぶ4つの芳香族アミノ酸残基(Y240,W252,W479,Y481)がある。これらの残基の機能を解明するために、Y→W, W→Yの変異をおこなった。その結果Y→Wによって吸着活性が上昇し、W→Yによって低下したが、いずれの場合も結晶性キチン分解活性は低下し、効率的な分解には酵素の動きやすさと吸着活性のバランスが重要であることがわかった。また、それぞれの芳香族アミノ酸残基は位置に特異的な機能を持つことがわかった。
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