1.バラ科植物ウメの自家不和合性雌蕊側因子、花粉側因子であるS-RNase、 SLFにそれぞれ分割した蛍光蛋白質のN末端側、C末端側を融合したものを発現するベクターを作成し、タマネギ表皮細胞に共導入したところ、細胞質の特定の領域で蛍光蛋白質由来の蛍光が観察された。このことは、S-RNaseとSLFが細胞質で相互作用することを示唆するものであるが、S-RNaseとSLFのSハプロタイプの違いによる結合性の異同は見られなかった。 2.前年の報告書で、ナス科植物ペチュニアよりいくつかの花粉側S遺伝子候補群をクローニングし、それらのうち、S_<B1>ハプロタイプのpB1SLF、 rB1SLFと、S_<D1>ハプロタイプのpD1SLF、rD1SLF1の遺伝子を植物に導入したことを報告した。しかしながら、これらの形質転換体は、導入遺伝子が正常に花粉で発現することが観察されるものの、花粉の自家不和合性表現型には変化がなく、導入した遺伝子候補群が花粉側S遺伝子として働くかどうかは明らかにはならなかった。 そこで次に、花粉側S遺伝子候補群のうち、pDl1SLF、rD1SLF1の遺伝子発現を抑制した形質転換体の作出を試みた。いくつかの形質転換体が得られ、そのうちの数個体の花粉は、交雑和合性を失っていた。今後、遺伝子発現と表現型の相関を調べる必要があるものの、このことは、pD1SLF、rD1SLF1遺伝子はともに花粉側S遺伝子として機能することを示唆する。
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