本研究では、長鎖脂肪酸関連生理活性物質の合成とそのための新しい方法論(1.ヨウ化サマリウムによる新規環状エーテル構築法、2.分子内及び分子間メタセシス反応による炭素骨格形成反応)の開発を行い、以下のような成果を上げることができた。 1.バンレイシ科植物を起源とする抗腫瘍活性アセトゲニン類の全合成 合成的に未開拓な六員環エーテルを持ったアセトゲニン類を効率よく合成するため、ヨウ化サマリウムによるβ-アルコキシアクリレート誘導体の高選択的環化反応を開発した。本反応によって合成された環状エーテルとγ-ラクトン誘導体をWittig反応により連結し、バンレイシアセトゲニンの一種であるピタゴニシンの最初の全合成を達成した。また、SonogashiraカップリングやWittig反応によらないアセトゲニン合成のための新しい方法論の開発を検討した。その結果、環状エーテル部とγ-ラクトンを分子間メタセシスでカップリングさせる手法を考案し、Trichilia alausseniiの実から単離された長鎖アルキルラクトンの合成に応用した。さらに複雑な構造を有するアセトゲニン合成にこの方法論を適用し、ピラゴニシンの第二世代合成も達成した。 2.坑ヘルペスウイルス活性を持った大環状糖脂質マクロビラシンAの合成研究 シャープレスの不斉酸化反応等を利用して合成した長鎖オレフィンアルコールヘグリコシル化反応を行い、糖アルコール誘導体ならびに糖脂肪酸誘導体を合成した。これらを山口法によりカップリングさせて長鎖アルキルエステルとした後、分子内メタセシスに供すると高収率でマクロビラシンAの構成脂肪酸等価体が得られた。一方、長鎖アルキルエステルのメタセシス反応条件を詳細に検討したところ、分子間メタセシス反応も進行することが分かり、一気にマクロビラシンAの持つ42員環コアを構築することに成功した。
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