シスチントランスポーター(xCT)は、哺乳類細胞形質膜上に発現するアミノ酸トランスポーターの一種であり、細胞内のグルタミン酸との交換により細胞外のシスチンを細胞内に輸送する機能を有する。このトランスポーターが誘導されることにより、細胞内グルタチオンレベルが上昇し、その結果、活性酸素などの酸化ストレスに対する防御能が高まると考えられている。これまでに、xCTは、親電子性試薬、活性酸素、サイトカイン、細菌性リボ多糖など、種々の刺激により強く転写誘導されることが明らかとなったが、食品由来の成分にxCTの発現を制御するものがあるか知られていなかった。最近、我々は、ある種のポリフェノールが、このトランスポーター活性を誘導することを示唆する結果を得た。そこで、本研究では、このポリフェノールによるxCT発現の制御機構を明らかにするとともに、食品由来の成分からxCT発現を制御する物質を探索し、個体レベルでの有効性について検証することを目的として研究を開始した。今年度は、シスチントランスポーター活性を誘導することが示唆されたポリフェノール類を中心に、その誘導機構を分子レベルで調べた。その結果、フラボノイドの一種であるケルセチンは、xCT遺伝子上流に存在するelectrophile response element(EpRE)を介してxCTの発現を誘導することが明らかになった。また、ケルセチン以外にも、ラムネチン、イソラムネチン、ルテオリン、フィセチンによってxCT遺伝子の発現誘導が認められた。一方、これらのフラボノイドと構造が類似する、アピゲニン、タキシホリン、ケンフェロール、モリン、ミリセチンなどでは、xCT遺伝子の発現は誘導されなかった。これらのことから、フラボノイドによるEpREを介するxCTの誘導は、フラボノイドの構造特異性に強く影響されることが示唆された。
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