主に脂肪細胞から分泌されるホルモン様物質であるレジスチンはインスリン抵抗性を引き起こす責任分子として報告されたが、その説を疑問視する研究結果も多く、生理機能をはじめ発現レベル・血中循環レベルの変動とその調節機構に関しては諸説あり、いまだ未知の点が多い。一つの原因として、本分子の定量法が完全ではないことが考えられる。そこで本研究では、まず始めに本分子の高感度定量法の構築を試みた。昨年度は主に脂肪組織中のレジスチンレベルの検出・定量法を構築したが、今年度は血中のレジスチンレベルを定量的に測定するためのサンドイッチELISA系を構築した。そして本方法を用いて高脂肪食負荷時や炎症惹起時の本分子の変動パターンを解析し、本分子の変動の生理的意義や調節機構に関して考察することを目的とした。 マウスレジスチンに対する2種類の抗体を用い、サンドイッチELISAを構築し、血中のレジスチンを定量する系を構築した。次にマウス(ICRオス)を普通食群(ND群)、高脂肪食群(HFD群)の2群に分けて約1ヵ月間飼育した。ND群に比べHFD群の方が有意に体重及び脂肪組織量の増加が見られた。血中レジスチン量は高脂肪食群の方が低下する傾向を示した。この結果は昨年の結果と同様であった。この肥満を起こしたマウスでは、炎症系のサイトカインであるIL6レベルも上昇しており、肥満によって炎症状態になるという仮説が支持された。一方、脂肪細胞が肥大化するとレジスチンは分泌増大するという報告も多い。この矛盾の原因として、炎症性のサイトカインによるレジスチンレベルの抑制が関与している可能性が考えられたので、つぎにマウスに大腸菌やLPSを投与して炎症を惹起させた。その結果、IL6やTNFαといった炎症サイトカインは増加したのに対し、血清レジスチンは経時的に低下した。よって炎症によってレジスチンは抑制されることが判った。肥満による炎症状態時にも同様に抑制される可能性が考えられ、肥満状態ではむしろレジスチンレベルが低下することが説明できた。
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