牛乳中に多く含まれるラクトパーオキシダーゼ(LPO)は過酸化水素とチオシアン酸塩からヒポチオシアン酸を産生し、食品汚染菌の増殖を抑える。LPOシステムはこのような特徴的機能を有するにもかかわらず、食品への利用は全く行われていない。その理由として、ヒポチオシアン酸のライフタイムが短くて素早く反応させる必要があること、食品中に含まれるタンパク質、糖質および脂質がLPOシステムの妨害をすることがあげられる。そこで、これらの障害を取り除き、食品中でLPOが有効に働くためのシステムを構築し、LPOによる効果的殺菌方法の改善を試みた。 食品成分によるLPO作用の阻害を分子レベルで解析するために、モデル系を用いて実験を行った。遊離SH基を有するサルモネラ菌の表層タンパク質が酸化されるが明らかになったので、遊離SH基を有する代表的酵素であるパパインと遊離SH基を持つアミノ酸システインをモデル物質としてLPOによる酸化を調べた。食品成分フリーの状態では、LPO4.5U/mlの通常濃度でパパイン、システインともに効果的にSH基が酸化された。しかしながら、2-3%の食塩、タンパク質及びクリーム、20%のシュークロースの存在下ではパパイン、システインの酸化が抑制された。そこで、LPO濃度を5-10倍に引き上げたところSH基の酸化は進行した。なお、LPO濃度増加がサルモネラ菌生育抑制に対する効果的に働くかどうかは今年度の課題として行う。 サルモネラ菌に対する抗体作成を試み、感度の良い抗血清が得られた。サルモネラ菌と抗血清とを混合し、LPOを作用させたところ、効果的な生育抑制は見られなかった。抗血清に含まれる抗体以外のタンパク質がLPO活性を阻害することが考えられた。そのため、抗血清を利用するための条件設定を行う必要があると考えられた。
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