近年、女性の社会進出、高齢化など生活様式の変化から様々な加工食品や保存食品が開発されるようになった。加えて、食品流通システムの変化の影響もあり、食の安全の重要性が再認識されるようになった。食品の安全性を科学的・系統的に理解し、予測するためには、内部の分子運動と保存性との関係を定量的に把握することが重要と思われるが、そうしたアプローチはあまり見られない。本研究では、近年、食品科学で着目されているガラス転移を理論的基盤として、分子の運動性の変化と保存性の関係について解明することを目的とする。 ガラスとは非晶質の固体のことで、食品の場合、パスタ類、クッキー、各種粉体がガラスに分類される。ガラスを昇温させるとある温度T_gでラバーに変化し、この温度をガラス転移点またはガラス転移温度という。T_g以下では、分子のミクロブラウン運動が凍結され、そのため反応速度がひじょうに低くなると言われている。よって、食品の保存性の面からT_gは基本的なパラメータである。また、食品の場合、水が可塑剤として作用し、T_gを下げることもよく知られている。昨年度は、示差走査熱量測定(DSC)により小麦粉グルテン、マルトデキストリン、コーヒー、脱脂粉乳などのガラス転移点T_gの測定を行った結果、ガラス転移が広い温度範囲で起こる現象であることが確認され、各食品に関してT_gの含水率依存性が求められた。 本年度は、水が食品の重要な可塑剤であることから食品の水分収着特性の測定および解析を行った。水分収着等温線の測定を行ったところ、食品の含水率は、ガラスからラバーに変化すると急激に増加することが確認された。また、溶液熱力学により求められる固体側の自由エネルギー変化によって水の可塑化効果が定量的に評価しうることが確認された。水分収着速度に関しては、相対湿度(水分活性)において水分収着速度が極小となることが見出された。
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