研究概要 |
本研究は、食品栄養としてのカルニチンによる加齢を含めた脳機能疾患に対する脳神経細胞死の予防や機能改善効果、おおよびそのメカニズムを明らかにすることを目的とした。17年度には、カルニチンがラット胎児の大脳皮質から調製した神経細胞において低酸素・低グルコースに暴露したときの細胞死抑制効果を有すること、その効果が濃度依存的であることを見いだした。さらに18年度ではカルニチンは脳虚血後の脳機能回復に有益な効果を有することが老齢ラット海馬スライスを用いた電気生理が実験で明らかとなった。人工脳脊髄液から酸素とグルコースを除いて海馬を10分間虚血状態に暴露するとCA1領域で記録している集合電位が消失する。虚血状態を解除すると信号が回復するが、カルニチンをあらかじめ還流した海馬スライス、あるいはカルニチンを長期投与したラットの海馬では回復が対象群より2.5から3倍、速やかに起こること、その回復率が増加した。カルニチンの脳機能への効果を検討する中で、我々は当初、カルニチン投与によって老齢ラットの脳の広範な部位でBDNFレベルが増加している結果を得た。しかしながら、低酸素・低グルコースにおける老齢ラット海馬のBDNFレベルを測定したところ、必ずしも虚血およびカルニチン投与によって同神経栄養因子のレベルに変化が認められなかった。改善効果は少なくともBDNFの発現を誘導することで発揮されているのではないことが示唆された。虚血や酸化ストレスといった脳障害時にストレスタンパク質の発現が誘導され障害に対する脳保護作用を発揮することが多くの研究で示されている。そこで、熱ショックタンパク質のHSP70,HO-1,小胞体シャペロンのGRP78,また抗アポトーシスタンパク質のBcl-2の発現変化をwestern blotで解析したところカルニチンによってHSP70、GRP78、Bcl-2に発現変化が認められた。
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