研究概要 |
本研究で用いるHedely法の実験の特徴は,同じ土壌試料から連続抽出で分析試料を得ることである。本法は森林植生にとって重要な可給態PのIon型(水溶性リン酸)の抽出で,陰イオン交換樹脂バック(IER)を用いる。しかし,予備実験において陰イオン交換樹脂バック内に微細な土壌が侵入し,その分離に多大な時間を要するとともに精度に影響を及ぼすことがわかった。そこで土壌粒子との分離が容易な陰イオン交換メンブランフィルター(IEM)を用いた実験方法について検討した。入手が容易な2種のIEMとIERによるIon型Pの吸着能を調査したところ,GLサイエンス社製のSB6407がIERとほぼ同様の吸着能を示した。SB1枚(17.34cm^2)で,Ion型P濃度が14μgP/g以下までなら十分に吸着可能であることがわかった。また,SBのP吸着能は洗浄再生によって低下し,測定精度上1試料に1回の使用が無難であるといえる。 東京農工大学フィールドミュージアム草木で,我が国に森林において典型的なスギ・ヒノキ人工林斜面とそれにつづく斜面上部の落葉広葉樹二次林,アカマツ林の土壌を対象として,土壌型や植生別のIon型Pと全Pを調査した。Ion型Pは全体的に非常に微量で,表層0-5cmが1〜4μgP/g,5-10cmが0.5〜1μgP/gとなった。全Pは500〜2500μgP/gであり,Ion型Pは全Pの0.3%以下であった。このIon型P量は,森林の年P吸収量を著しく下回っていた。一方,全Pは世界の主要な土壌と比較して多く,潜在的なP供給力は大きいと考えられる。したがって,森林植生はCa可溶型Pや有機態・易分解性Pを利用していると推察され,形態別Pの調査の重要性が再認識された。
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