研究概要 |
平成17年度にはHedely法で用いる陰イオン交換メンブランフィルター(IEM)を用いた実験方法について検討し,わが国の森林において典型的なスギ・ヒノキ人工林斜面の土壌を用いて,その形態別リンの特徴を明らかにした。 平成18年度には,風化の進んだ熱帯林土壌(インドネシア・東カリマンタン)および土壌が脆弱なカルスト地域(中国・貴州省)における森林土壌を用いて,形態別リンを調査し,可吸態リンや有機態リンの画分の現存量へ影響を及ぼす要因を把握した。熱帯林土壌では,天然林から二次林,早生樹人工林,低木林,アランアラン草原へと,森林植生が衰退するに従い全リン濃度が減少するだけでなく,可給態リンや易分解性有機態リンの画分の割合が低下し,不可給態や難分解性有機態リン画分の割合が増大した。微生物バイオマス・リンも同様の傾向であったが,その含有量は可吸態リンと易分解性有機態リンの合計より多く,熱帯林土壌においては微生物バイオマスによるPプールが,P供給力に重要であると考えられた。また,可給態窒素や可分解性有機態窒素とのN/P比をとると,天然林で高く,アランアラン草原に近づくほど低くなった。このことは,天然林ではN供給力に対してPが不足しているのに対して,森林植生の衰退は土壌のNをPよりも著しく減少させることを示唆している。 カルスト地域では,封山育林し現植生および土壌pHの異なる4つの区を調査した。植生は気候帯の極相に近い常緑広葉樹と落葉広葉樹が混交した林分で,可給態リンや易分解性有機態リンが多く,この傾向は土壌pHの高さよりも全炭素量と強い正相関があり,有機物分解によるP供給の影響が大きいといえる。また,別の可給態リンの分析法であるBray II法と比較して,本法の可給態リン量はやや多く,特に上記の混交林でより高く評価され,よく森林回復の状況を反映していると考えられた。
|