研究概要 |
平成17年度はHedely法の実験方法を検討し,スギ・ヒノキ人工林斜面の土壌において形態別リンの特徴を明らかにした。平成18年度は,風化の進んだ熱帯林土壌において微生物バイオマスPによるプールが重要であること,土壌が脆弱なカルスト地域において有機物分解によるP供給が大きいことを明らかにしてきた。 平成19年度は,カルスト地域における形態別リンの分析を,さらに多くの地点で実施し,可吸態リンや易分解性有機態リンの画分および微生物バイオマスPの特徴と保持量について考察を進めた。その結果,カルスト地域においては,可吸態リン+易分解性有機態リンの画分(=可利用態リン)は,微生物バイオマスPとほぼ1:1に近い強い正の相関性があった。可利用態リンは,広範に渡る土壌pHと一次的な相関はなく,有機物の指標としての全炭素量とpHを説明変数とした重回帰によって約70%の寄与率で説明された。 本科研をとおしてHedely法のP画分で森林植生がすぐに吸収可能な水溶性リン酸は非常に少なく,森林の年間P吸収量を著しく下回っていた。森林植生は,水溶性リン酸に加えて可溶解性Ca態リンおよび易分解性有機態リンを利用していると考えられ,有機物分解による供給速度と微生物バイオマスによるプールが重要であることが示唆された。森林植生が利用可能な上記の3画分は,土壌表層0・20cmで一般的な森林の年間P吸収量を上回り,有機物による供給と微生物プールおよび分解速度が順調であればPの供給力は十分あると評価される。窒素の供給が多い立地(熱帯天然林や大気N沈着が多い関東山地など)では,相対的にPの供給速度が間に合わず,Nに対してややP不足の状態がみられた。一方,荒廃地の多くはN不足が深刻であり,根粒菌と共生する肥料木の導入が有効であるが,極度に酸性化した火山被害地などでは根粒菌への微生物によるP供給も重要であるといえる。
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