研究概要 |
樹木の一次生産量と資源利用との関係を明らかにするため,日本海側(京都府北部)と太平洋側(高知県)および京都市において,気候条件,養分条件の異なる複数の調査区を設定した。主要な対象樹種はヒノキとした。2005年における気象条件と葉の窒素特性との関係をみると,降水量と生葉窒素濃度には明らかな傾向はみられなかったが,降水量が多い林分ほど落葉の窒素濃度が高く,窒素引き戻し率が低い傾向があった。窒素の利用効率と水分利用効率の間にはトレードオフの関係があり,両者を同時に高めることができないという事例が報告されており,ヒノキでも同様の傾向があることが示唆された。葉の窒素特性と落葉の季節性との関係は,落葉開始時期が遅いほど落葉窒素濃度が低く,窒素引き戻し率が高くなる傾向があった。 京都市に設定した同一斜面上のヒノキ林分において,土壌の窒素資源量と伐採による人工ギャップの形成が残存木のヒノキの窒素利用に及ぼす影響について検討した。その結果,ヒノキは土壌の窒素資源量に対応して,貧栄養な条件で窒素引き戻し率を高めて落葉窒素濃度を低下させることで窒素利用効率を増大させていた。一般に,窒素引き戻し率は落葉期間が短いほど高くなる傾向が知られている。伐採によって引き戻し率は高くなったが,そのときに落葉期間が短くなる傾向はみられなかった。したがって,落葉前の引き戻し率が伐採によって増加したことは,落葉の季節性が直接的に影響を及ぼしているのではなく,伐採に伴う環境変化によって,生葉の窒素濃度が上昇したことや,光資源が増大したことにより生理特性が変化したためであると考えられた。
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