研究概要 |
ヒノキの窒素利用を明らかにするため,日本海側(京都府北部)と太平洋側(高知県)および京都市において,気候条件,土壌条件の異なる複数の調査区を設定した。京都および高知のヒノキ17林分で2005年7月から1年間採取したヒノキ落葉の窒素濃度と落葉時期を比較した。落葉の窒素濃度は年平均気温が高いほど低くなる傾向がみられた。累積落葉量が年間落葉量の50%に達するまでの日数で表される落葉時期は、年平均気温が高いほど遅くなる傾向を示した。したがって、地域間での比較では、温暖な気象条件であるほどヒノキは落葉時期を遅くして多くの窒素を落葉前に引き戻すことができるために落葉窒素濃度が低くなり、窒素を効率的に利用していることが示唆された。17の調査林分の中で年平均気温が高い高知市と京都市の林分について落葉窒素濃度と落葉時期との関係を検討した。高知市のヒノキ林分における1991年から2006年までの16年間のモニタリングから、落葉窒素濃度への気温の影響は小さく、生育期間の日射量が多く、台風の影響が小さいほど落葉窒素濃度は低くなることが明らかとなった。京都市(上賀茂)の同一斜面上の斜面上部、中部、下部に位置するヒノキ林分では、2005年から2007年までの3年間にわたる観測の結果、落葉時期が早い斜面上部ほど落葉窒素濃度が低くなる傾向を示した。これは17林分でみられた落葉時期と落葉窒素濃度との関係とは逆であった。上賀茂では斜面位置によって土壌の養分条件に傾度があるため、養分条件が落葉時期と落葉窒素濃度に影響を及ぼしていることが示唆された。したがって、温暖な地域では気温以外の要因がヒノキの窒素利用に強い影響を及ぼしていることが示唆された。
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