地球規模での環境変動に伴う資源量の変動によって植物の養分利用効率は影響を受けることが予想される。本研究では、気象条件の違いや間伐による環境条件の変化に応じて、植物は窒素利用効率をどのように変化させているのかを明らかにするために、国内の主要な造林樹種で広く天然分布するヒノキを対象として、太平洋側(高知県)、日本海側(京都府北部)および内陸部(京都市上賀茂)の気象条件が顕著に異なる地域に調査林分を設定した。調林分における年平均気温と年降水量はそれぞれ9.1〜16.3℃、1500〜3300mmの範囲を示した。高知県と京都市のヒノキ6林分には間伐区と対照区をそれぞれ設定した。 高知、上賀茂のいずれの地域でも、間伐区では窒素引き戻し率が増加する傾向がみられた。高知市内の林分では成長期間の日照時間が多いほど落葉窒素濃度が低くなる傾向があった。光資源は窒素利用効率を高めるために重要であることが示唆された。降水量が多いほど窒素濃度は高く、窒素引き戻し率は低い傾向を示した。降水量が多い林分で窒素利用効率が高い傾向は認められなかった。ヒノキは年平均気温が高い温暖な気象条件の林分ほど落葉時期を遅くしていた。落葉時期が遅いほど落葉窒素濃度は低くなった。葉を長期間、維持することで多くの窒素を落葉前に引き戻すことができるために、落葉窒素濃度を低くして窒素利用効率を高めていることが示唆された。寒冷な地域の林分は高標高に位置するため、台風などの風の影響を強く受ける。これらの林分では、強風の影響により落葉時期が早くなって窒素を引き戻す前の葉を多く落としていた。ヒノキの窒素利用効率は落葉の季節性と密接な関係があり、温度条件や台風などの影響を受けていることが明らかとなった。土壌養分や水資源だけでなく、気象条件もヒノキ林分の窒素利用効率に影響を及ぼしていることが明らかとなった。
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