世界的な森林の撹乱と劣化は森林植物に深刻な影響を与えつつある。例えば、少なからずの森林植物の絶滅が危惧され、中には絶滅してしまった種もある。本研究の目的はそれら植物の保全のための基礎情報を得ることにある。本研究では、ラン科植物のタカツルランを事例として研究した。タカツルランは無葉緑植物で、わが国では絶滅危惧1A類(CR)に分類されている。タカツルランは根の中に棲息している木材腐朽菌と共生関係を結んでいる。このランは光合成能力を喪失しているので一生を通して炭素源は共生菌に依存し、さらに種子の発芽にも共生菌を必要とする。これらのことは、共生菌がタカツルランの保全に有用なツールとなり得ることを示唆している。 タカツルラン保全の試みは移植によって行った。最初に、タカツルランの根から共生菌を分離した。次いで、共生菌とタカツルランの種子との共生培養を試験管内で行い、プロトコームと幼植物体を準備した。最後に、プロトコームや幼植物体を土壌中に埋設した。得られた結果から次のような提案をすることができる。 1.移植植物体は、共生菌が繁殖している培養基と共に埋設したときに成長した。このことから、共生菌は植え戻しにとって必須で有ることが明らかにされた。植え戻しを確実に成功させるためには、容器の中で植物体を共生菌が繁殖している培養基と共に培養し、その容器を森林に埋設すれば良い。 2.移植用の植物体は根・茎が充分に生長した植物体を用いるのが良い。 3.移植された植物体は外部へ根を伸長させ、其処にあった丸太に付着し、丸太の中のキノコが親和的な種であればそのキノコと共生関係を築いた。従って、移植する前に親和的なキノコが生育しているかどうかを調査しておく。 4.共生菌の生長はタカツルランの生長にとって是非とも必要である。従って、生長と植え戻しに適する時期は温度が高く降水量が豊富な6月、8月、9月が良い。
|