熱帯雨林は大気圏へのイソプレンガスの主要な供給源とされている。同様に亜熱帯域に生育する熱帯樹木も重要なイソプレン供給源であることが推測されるが、亜熱帯域の樹木のイソプレン放出能を直接的に測定した研究は少ない。本研究は亜熱帯沖縄に自生或いは外来の熱帯樹木42種のイソプレン放出能を計測するととともに光、温度等の環境因子に対するイソプレン放出の応答特性を明らかにすることを目的とした。 計測した42種の中、4種の放出速度は20μg/g/hr以上であり、28種は1-10μg/g/hr、残りは1μg/g/hr以下であった。従って、本研究で計測した樹木類の大半は低放出群に分類されると判断された。しかしながら、沖縄在来のクワ科植物の放出速度は比較的高く、平均放出速度は14.2μg/g/hrと見積もられた。とりわけハマイヌビワ(Ficus virgata)の放出速度107.1μg/g/hrは葉面積換算では47.4nmol/m^2/sに相当し、高放出群に分類されると判断された。さらに、ハマイヌビワからのイソプレン放出は光強度1700μmol/m^2/sまで直線的に増加し、温帯植物において観察される600μmol/m^2/s近傍での光飽和現象は観察されなかった。これらの結果は熱帯同様亜熱帯域の植物も大気圏への重要なイソプレン供給源となることを示唆した。 次いで、光、温度に次ぐ環境因子として、湿度のイソプレン放出速度への影響について検討した。高湿度環境下においては、光照射は急激なイソプレン放出速度の上昇を引き起こすが、低湿度条件下ではこのような現象は観察されなかった。さらに、定常状態のイソプレン放出速度も湿度依存的に増加した。これらの結果は光、温度のみならず湿度もイソプレン放出を規定する因子であることを示唆しており、今後の熱帯・亜熱帯植物のイソプレン放出予測式に取り入れる必要があることを指摘している。
|