カシノナガキクイムシ成虫を解剖し、摘出した前胃から菌類の分離を行った。その結果、ナラ菌(Raffaelea quercivora)をはじめ糸状菌類も分離されたが、酵母状菌類が優占して分離された。これらの酵母類を純粋培養iし、18SrDNAのほぼ全領域、及びLSU rDNAのD1/D2領域のDNA塩基配列を決定した。ナラ菌は酵母状に生育する場合があることから、その異同を明らかにするためナラ菌についても塩基配列を決定し、酵母類との比較を行った。その結果、これらの酵母類の配列はナラ菌とはまったく異なるものであることが判明した。さらにこれらの酵母のLSUrDNAD1/D2領域の塩基配列を用いてDNAデータバンクに対して検索を行い、塩基配列の相同性の高いデータを抽出した。これらの塩基配列データを用いて分子系統解析を行った結果、酵母類はCandida属の一種と近縁、およびAmbrosiozyma属の一種と近縁であることが明らかになった。 次に摘出前胃サンプルのDNAに対してPCRを行った結果、通常のPCRではほとんどPCR産物が得られないか、虫体由来と考えられるPCR産物のみが検出される結果となった。この原因として、サンプル内の菌類由来DNAが極めて微量、またGCクランプを付加したプライマーを用いたPCR効率が悪いなどが推察された。そこでPCR反応液に再度PCRを行い、その際のプライマーやPCRのプログラムについても検討した。その結果、いくつかのサンプルでリファレンスとして用いた菌株DNAと同移動度のPCR産物が検出され、本PCR産物を用いてDGGEを行うこととした。その結果、(1)前胃・マイカンギアからは足サンプルにはないバンドが検出され、バンド数は前胃よりもマイカンギアで多い傾向が認められた。(2)供試したいずれのサンプルからも酵母菌株と同移動度のバンドが検出されたのに対し、ナラ菌のバンドは前胃サンプルからは検出されない傾向が認められた。以上の結果は、カシノナガキクイムシは酵母類を主食とする説を支持していると考えられた。
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