研究概要 |
重金属を使用しない,環境負荷の少ない木材防腐剤として,ホウ酸やホウ酸塩を主成分とするホウ素系薬剤の実用化が期待されている。そこで本研究では,ホウ素系薬剤を注入した木材試料中のホウ素原子の分布を,中性子ラジオグラフィ法を適用することによって巨視的に可視化して評価するとともに,木材中へのホウ素系薬剤の固定化法について検討した。 日本原子力研究所東海研究所内のJRR-3中性子ラジオグラフィ装置を利用して木材試料中のホウ素原子の分布を可視化し,さらに画像処理を行なうことによってホウ素分布を数値化して評価した。木材試料には針葉樹のスギと広葉樹のブナを使用し,ホウ酸をメタノールに溶解して木材試料に注入してその分布を調べた。その結果,スギでは木口面付近での濃度が明らかに高く局在していたのに対し,ブナではほぼ均一に分布していることが示された。これらの試料を褐色腐朽菌オオウズラタケおよび白色腐朽菌カワラタケによる腐朽試験を行なったところ,いずれも強い耐朽性を示し,ホウ酸の分布の違いによる顕著な差異は認められなかった。しかし溶脱処理を行なうとホウ酸は速やかに溶出してしまい,それにともない耐朽性も大幅に低下してしまった。 そこで,ホウ素を木材試料内に固定化する方法について検討を行なった。固定化は,各種タンパク質(動物血清,カゼイン,乳由来タンパク(Whey Protein Isolate)など)とホウ酸の混合水溶液を木材に注入後,熱処理によってタンパク質を変性させることによって行なった。その結果,溶脱処理後でもホウ素のある程度の固定が可能となり,耐朽性の向上も認められた。しかしながら,特にオオウズラタケに対して,実用レベルの目標基準である質量減少率3%以下の達成には僅かながら及ばなかった。
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