研究課題
基盤研究(C)
樹木は、再生可能な木質バイオマス原料やエネルギーを生産する。しかしながら、樹木は低温、高温、乾燥、塩害、大気汚染など様々な環境ストレス下で生育すうため、これらの環境ストレスは、分裂組織の分裂能力を低下させ、木質バイオマスの生産量を減少させる。しかしながら、環境ストレスがどのような伝達経路を通って分裂能力に対して影響を与えているかについては、知見がほとんどないのが現状である。本研究では、細胞の分裂や分化に重要な役割を担っている細胞骨格に注目し、環境ストレスが樹木の細胞分裂を制御する機構について明らかにした。環境ストレスとして低温ストレスに注目し、樹木形成層細胞内の細胞骨格への影響を解析した。微小管は、低温により脱重合を起すことが知られている。そこで、樹幹試料の固定を室温と低温下で行い、細胞内の微小管の挙動を間接蛍光抗体染色法と共焦点レーザ走査顕微鏡法を組み合わせて観察した。その結果、冬期に採取した樹幹試料においては、室温で固定した場合も低温で固定した場合も、形成層細胞内で微小管の束が明瞭に観察された。一方、春から夏にかけての形成層細胞内で微小管の束が明瞭に観察されたが、低温で固定した場合は脱重合したと思われる断片化した微小管のみが観察された。従って、微小管の低温に対する安定性は、季節的に変化するといえる。低温に対する微小管の安定性の違いが、樹木分裂細胞の低温ストレス耐性の違いを決定する因子であり、低温ストレス耐性を制御する重要な要因であることを示唆している。一方、環境ストレスのひとつであるオゾン暴露処理を2年間行った樹木の成長解析も行ったところ、オゾンによる成長量の変化は樹種により異なることが明らかになった。従って、オゾン耐性の違いにより将来の木質バイオマス生産にも影響を及ぼすことが予想される。
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